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立科町
北佐久郡立科町の別荘地に佇む「北アルプスの見える家」は、木を知り尽くした職人が墨付・刻み・削りを丁寧に行い、足固め・貫を用いた伝統工法により建てられている。檜の通し柱をはじめ天竜杉や唐松で構成される木材の力強さや仕上げ材に採用された天然素材の質感、さらに同社職人の手づくり建具の個性が存在感を放つ。
材を選び抜き手仕事が尽くされていながら、過度な重厚感や堅苦しさはない。一歩足を踏み入れると、周囲の緑がグッと身近に感じられる温かさに包まれる。この心地良さこそ、株式会社菱田工務店の成せる業と言えよう。
ただし、開放感ある贅沢な空間イメージからはにわかに信じ難いのが、延床面積30坪以下というコンパクトさ。キッチン・ダイニング・リビングを建物の北から南へと列ねて大空間を形成。その北西に和室、南西方向に洗面・トイレ・浴室および脱衣室を集約させた。玄関ポーチ脇の東面から建物の南全面にかけては抜群の眺望を誇るウッドデッキがある。さらに、リビングダイニングは吹抜けの開放感に満ちた空間とする一方で、キッチン上部は広い小屋裏収納、和室とユーティリティー上部北側には納戸、その南側には寝室である畳の空間を設けている。
こうした無駄のないメリハリある空間づかいもまた、同社が目指す“コンパクトながら質の高い住まいの提案と創造”のための大切な要素。「年月を経て建物そのものがアンティークと評されるような、価値ある住まいをつくりたい」という熱き想いは、この住まいで見事に具現化されている。まるで素材が呼吸をしているかのように、力強くて温もりにあふれた空間が広がる。(ナガノの家 2015年秋冬号 vol.4掲載)