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上田市 / T邸 / 夫、妻、長男、長女、次女
「野山がこんなに荒れた時代は今までにないでしょう」。大学で生態学の教鞭を執るご主人によると、野山が手入れされないために草原が減って森が荒れ、多くの生き物がいなくなったという。「自然の恵みを利用する生活をしていかないと日本の自然が守れない」。そんな思いから、この家では国産ヒノキの大黒柱や梁の天竜スギなど、国産の素材を積極的に取り入れた。
さらに驚くのは、手すりに使った竹や薪小屋のカヤなど、ひと昔前なら当たり前だった地元の自然素材が多彩に使われていること。「竹は炙る、カヤは乾かすなど、処理は時間も手間もかかります。小屋の屋根葺きなんて、建材を買ってくれば1日でできちゃう。だけど、まずは自分が実践しようと思って」とご主人は話す。
その思いはご主人だけでなく奥さまにも。ウッドデッキには熟成中の醤油や味噌が置かれ、自分達で生み出す昔ながらの暮らしを実践中だ。「長野は閉鎖的なんて言う人もいるけど、同じ感性を持つ仲間からどんどん人脈が広がって。この醤油も、完成して絞るときは友人達とパーティするんです」と、ワクワクを抑えきれない奥さまの笑顔が印象的。買ってただ消費するのではなく、身近な恵みに感謝し、楽しみながらつくる。その暮らしぶりに感化され、同じ試みを始めている人たちが次第に増えている。
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床と天井は柔らかなスギ、2本の大黒柱はヒノキ、そのほか赤マツやカラマツなど、すべて国産材で構成された田中邸。奥さま曰く、「我が家に帰ると、とにかく気持ちいいのひと言」というが、その最大の立役者は菅平高原の土を用いた土壁だ。
1.5トントラックに1杯半。土の掘り出しから振るい、塗りの作業まで、家族総出で、時には友人らも巻き込みながら行った壁塗り。当初は一部のみの予定だったが、菱田工務店・菱田社長の「全部やりませんか?」との言葉から、1階のすべてを土壁にした。大変な作業だったことは想像に難くないが、「統一感が出て本当に良かった」とご夫妻。土壁の最大のメリットは優れた調湿性で、夏も冬も適度な湿度をキープ。何とも言えない深い味わいも魅力だ。
また、時間が経つにつれて変わっていく素材の表情を楽しめるのも、自然素材がふんだんな田中邸の魅力。日に当たり少しずつ色が変化していく床や柱は、磨くことで光沢を放ち始める。「新品が最上で、徐々に劣化していくのは本物じゃない気がして」と語るご主人。次第に変わっていくそれぞれの色や風合いを楽しむ毎日だ。
以前は引っ越しが多かったというご一家だが、「もうこの場所から離れたくない」とご夫妻。自然の恵みを活かし、享受する〝本物〟の暮らしを満喫している。
(ナガノの家 Vol.12 2019年秋・冬号掲載掲載)