☎0268-82-8876
安曇野市 / R邸 / 本人
伸びゆく借景を眼前に望み
太陽の巡りとともに自然の摂理に導かれて暮らす
床と天井を貫くねじりの柱。美しいフォルムに見惚れながら視線を上げると、うねるように並ぶ登り梁。台形状のリビングは南へと突き出している。「船のようですね」と設計担当の木下さんに伝えると、オーナーのRさんが沖縄出身なこと、また安曇野を開拓したのは九州から来た海の民だったとの説を反映し、「海に想いを馳せる小舟のような家を目指しました」と教えてくれた。
海外での生活経験もあるRさんが信州を初めて訪れたのは仕事のため。夏を信州で、それ以外は沖縄と、数年は2拠点を往復する生活だったが、仕事のメインが信州となったことから家づくりを考えた。景観の良さが絶対条件だった土地選びがひと段落した後、次はパートナー選びへ。雑誌で見た菱田工務店の家に惹かれて同社を訪れ、菱田社長と話す中で依頼を即断したという。海外も含めさまざまな住宅に触れていたRさん、「『自分の家を持つなら』と思い描いていた理想を、菱田さんなら必ず実現してくれると確信しました」と話す。
丁寧に仕上げられたラワン合板の壁や戸袋へピタリと収まる造作の木製サッシ、微妙に角度を変えながら組まれた登り梁など、技術力に裏打ちされた造形美にあふれるR邸。東と南の大開口は眼前の田畑からはるか先の里山までをシームレスにつなげ、雄大な自然と日常は一体になる。「先日、燃えるような朝焼けを見ました」と話すRさん。自然の移ろいは1日として同じではないからこそ、自然とともに生きる素晴らしさ、奥深さを実感させられた。
表情豊かな素材美と無類の開放感を携えて
真に美しいのは、ムダがなくシンプルなもの―。R邸を見ると、それが具現化されていると感じる。例えばRさんが「絶対に取り入れたかった」という焼杉の外壁。シンプルの極み、“黒”ではあるが、自然光に照らされた際の光沢や陰影、雨に濡れた時のしっとり感など、複雑な表情が混在する。それは屋内も同様。丁寧に色味を選んだラワン合板の壁や杉の床、登り梁、栗材の造作キッチンなど多様な材に彩られた空間は、微妙に違う質感や木目、光の反射具合などの繊細な美しさが響き合う。
同時に注目したいのが、約20坪とは思えない開放感。外との連続性を生む大開口のほか、吹き抜けの伸びやかさ、ほとんど仕切りの無い間取り、小物を収めるニッチ収納など、細かな工夫でどこまでも気持ちよい広がりを実現した。
昨年の12月25日、まるでクリスマスプレゼントのように引き渡された新居でくつろぎながら、「これからどうアレンジしていこうかワクワクしています」とRさん。「古いモノの味わいが好き」というRさんにとって、自分色に染まり魅力が増していく我が家は、自らを一生楽しませてくれるかけがえのないパートナーとなるに違いない。
(ナガノの家PREMIUM 2022掲載)