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松川村 / S邸 / 夫、妻、長男、長女
北アルプスを望む北安曇郡松川村に完成した「キノコノオウチ」。大きな方形屋根が特徴の外観は、キノコのような愛らしさをまとったモダンなデザイン住宅。その一方で、大屋根の軒の深い佇まいは、どこか懐かしい日本家屋の面影を映す。
手がけたのは、安曇野を軸に故郷・和歌山県との両方を行き来しながら設計活動をするアトリエ・アースワークの代表・山下和希さん。「豊かな自然の風景や地域の風土・文化を大切にした家づくり」をコンセプトに、家族が繋がり、心地良く暮らせる住まいの提案をしている。施主は首都圏から奥さまの故郷へUターンを決めた子育て世代のご夫妻。5年ほど前に山下さんが安曇野市内で手掛けた住宅のスタイルが気に入り、今回の家づくりとなった。
庭のアプローチから緩やかな階段を上り玄関へ。アイストップとなる自然木のスクリーンが、人を玄関までスムーズに導くとともに、居住スペースとの視線を遮る役割を果たす。
この家の懐の大きさを感じさせる大屋根の魅力は人を守ること。「玄関先で立ち話なんてこともありますよね。雨や雪の時でも傘をささずに話せるよう配慮しました」と山下さん。住む人はもちろん、訪れる人に心を配るのも山下さんのこだわりである。
玄関を開けて室内へと続く動線にも同じコンセプトが伺える。アプローチの自然木スクリーンを屋外から屋内へと引き継ぐように板壁が延びることで自然と室内に導かれる。
リビングフロアを基準フロアレベルより60㎝下げたことに加え、吹き抜け空間をいっそう大きく見せているのは、南側の大きな開口とスキップフロアでつながるダイニングキッチン、そしてスケルトン階段で2階へと続く縦の広がりだ。白色のクロスで統一した壁にやさしさを添えるのは、ランダムな色調のカバ材フローリング。システムキッチンは「KOBESTYLE- FUN×kitchen」を採用。幾多のパターンから選べるプレタポルテスタイルで、個性的なアイランドキッチンが完成した。
大屋根の中に位置するのは子供部屋と寝室。「屋根裏居室の提案は受け入れてもらえるか少々不安でしたが、奥さまの実家の自室が屋根裏に位置し、勾配天井の部屋だったことでスムーズにOKが貰えました」と山下さん。天井の低い部分は収納として利用し、空間を有効に活用している。
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アトリエ・アースワークが手掛ける住まいは北欧の生活スタイルを手本にしているそう。そのひとつは明かり。「帰宅時に灯る明かりから感じる温もりは、重要なデザイン要素です」と話す。玄関先とリビングはデンマーク製・ルイス・ポールセン社の照明を取り入れることで空間デザインのポイントに。合わせて、大屋根に設けられた7つの天窓からは四季折々に色調が異なる自然光が差し込み、室内をいっそう彩る。
「私の仕事はご家族が暮らす〝器作り〟のお手伝い。そこに色を加えていくのはご家族です」と山下さんは言うが、不思議なことに家族の持ち物が買い揃えたかのようにぴったり調和することがあるという。それはやはり、建築家が住まい手の「好きなモノと好きなコト」「こんな家に住みたい」をしっかりと受け止め、形にしているからに他ならない。
「私たちが作った住宅の中で、ご家族が感性豊かに生活する姿を見たとき、初めて建築家としての喜びを実感します」。信州で10軒目となるこの住まいで新しい家族のスタートを見届けた山下さん。さらに複数の住まいの設計が進行中だ。
施工/有限会社南澤建設(ナガノの家 2019年 春・夏号 vol.11掲載掲載)